2022/12/3にX-Knowledgeより『伊礼智の住宅デザイン学校 10人の建築家が教える設計の上達法』という書籍が出版されました。
既に購入して読まれたという方も多いのではないかと思います。
こちらの記事では、発売を記念して12/2に行われた限定公開セミナーを聴いて、私なりに感じたことを備忘録として綴っています。
現地での参加は先着25名、ライブでの視聴回数も120回ほどでしたので、ごく一部の方しか聴かれていない貴重なお話だと思います。
こちらのセミナー、YouTubeでのアーカイブ配信は12/11までの公開予定でしたが、この記事を書いている時点(12/13時点)ではまだ視聴ができますので、公開用のリンクさえまだ購入できるようであれば、実際に視聴することもできるかもしれません。
私個人の不安と焦り
セミナーに参加したきっかけとして、私は住宅業界で働く上で漠然とした不安や焦りがあります。
きっとどんな仕事でも同じような悩みはあるのだと思いますが。
自分が住宅の仕事に関わる上で、どうあるべきか、何ができて、何を目指して、どうなりたいのか、本当にしたいことは何か、このままでいいのか、特にこの1年は考えている時間が少なくありませんでした。
世の中に情報が溢れ、少し周りを見渡してみるだけで、自分では一生かけても届かないのではないかと思うような、才能・センスと表現されるような、数値化できない不明確な距離を感じてしまいます。

そんな中、今回のセミナーのテーマが『これからの住宅設計界、どう生き抜く?』
建築家の方々としての考え方を、1つの答えとして求めるように申込みをしました。
セミナーの構成
前半部分は本書籍の作成にあたっての経緯、著者の建築家の方々のそれぞれが担当されたパートについてのお話がありました。
こちらは私の言葉ではなく、実際に書籍で読んで頂く方が良いと思いますが、建築家の方々それぞれの建築の解釈の仕方(骨格の捉え方と表現されていました)が見えて、とても面白く勉強となるお話でした。
特にお笑いやファッションを建築と同じものとして定義されていて、日常のありとあらゆるものがその人らしい感性と良い建築の形を生むのだと感じました。
セミナーを踏まえて書籍も読んでみましたが、より深くそれぞれのパートにて解説があり、何度も読み返したくなる内容です。
そして、中盤から後半にかけて、現状の不安やこれからのことについてお話がありました。

建築家としての今の不安
断片的な情報が溢れていること
『断片的な情報が溢れる中で、断片的な情報に対してすぐに返答しないといけないことが増えている』
続けて
『住宅建築の仕事は総合的に考えないと、まあ、時代だからしょうがないけど』
こちらについては深くお話はありませんでしたが、私の解釈が間違っていなければ、とても共感の深い言葉でした。
例えば日常の仕事の中で、お客様とのやり取りの中で『このキッチンを入れたい』『この商材を使いたいけどいくらコストが上がるか』『この会社で建てたいから』など、情報が溢れていることで、本来手段であるはずのものが、目的のように感じるようなやり取りが増えている気がします。
そしてそれこそが家づくりと思ってしまいがちだなと。
本来それら全て手段であり、断片的な選択の1つであって、もっともっと抽象的で根本的な話ができるように、提案者側の本当の意味での共感と提案が必要なのだと感じました。
もちろん、状況に合わせて断片的なやり取りは必要不可欠です。
ただそんな中でも本当に大切なことは見失わないようにしたいです。

仕事が減っていること
これは物価の高騰によるものです。
『今までは指先がかかっていた方々が手が届かなくなってきている』
当たり前かもしれませんが、建築家の方々でも同じように感じられているのだなと思いました。
ここ数年で世界規模での情勢は大きく変化している反面、給与は変わらず(むしろ下がったという方も少なくない)住宅を建築するということへの壁が高くなっていることを誰しもが痛感しています。
質や性能がよくなっているものもありますが、正直それ以上に高くなりすぎています。

ただそんな時代だからこそ、伊礼さんの『小さな家』という考え方は私自身にとっても今後のテーマであるのだと思いました。
過去に一度だけ、ご縁があり、伊礼さんのセミナーに参加させて頂いたことがあるのですが、その際、小さいということへのネガティブ意識について質問させて頂きました。
『小さい=ネガティブという意識がほとんどのお客様、そして私自身にも少なからずあります。どのように考え伝えるべきなのでしょうか。』
それに対してこのように教えて頂きました。
どうしても広さを考えがちですが、面積を小さくする、大きくするではなく、居場所がどれだけ作られるかで考えてみてください。 もし仮に体育館のような大きな部屋があったとしたらどうでしょう。 居心地はいいでしょうか? きっと居場所はソファやダイニングや窓辺や部屋の隅っこだったりします。 広さは重要ではなく、その空間の中にどれだけたくさんの居場所があるか考えてみてください。
私はこのお言葉がずっと心に残っています。
これを出会うお客様へもっと伝えたいです。

街並みの変化について
『東京の街を歩いた時に、古き良き建物がなくなってきて、つまらなくなっている。』
植栽も雑草も生えていない四角い箱が並んでいるだけの乾燥した風景が街並みと呼ばれていることに、皆さん悲しさと同じくつまらなさを感じられていました。

『時代が湿式から乾式になってきている。』という表現がありました。
空気そのものではなく、時代の湿度が下がってきている。
何となくわかるような気がしました。
住宅の周りに木が生えていたら、落ち葉が落ちて、朝落ち葉を掃き掃除しながら近所の方と声を掛け合って、住宅の形が街並みだけでなく、時代の形も作っています。
そして、これからこの湿度感を良きものだと思う人が減っていくことで、そういった街づくりの価値観の共有が難しくなってきているのではないかと。
ただそれも時代の流れですし、お施主様の価値観が最も重要だと思いますので、住宅の形は結局はそれぞれです。
ですが、少なからず私もそういった古き良き風景には心動かされるものを感じますので、今の住宅にあった在り方で何か持ち込みたいと感じました。

若い世代へ向けて
ここまで今の不安は、というお話でしたが、皆さん口を揃えて『不安は常にある』とおっしゃられていました。
そして、これから住宅に携わる若い世代へ向けてのメッセージが。
今の世の中は二次元の体験ばかり、実際は三次元もしくは四次元的な体験が必要。 サグラダファミリアを動画や写真で体験できているような気がしているが、実際行ってみると実物にしかないものがあって、二次元では伝わらないものがある。
いつどこでも、どんな情報でもすぐに見られる世の中だからこそ、実際の体験を大切にしなければなりません。
また、それは建築だけでなく、日常で目にする、感じること全てからのことだと思いました。
憧れを持つことは良いことだが、他人の人生を生きてはならない。 建築家それぞれに骨格の捉え方があり、隣の芝は必ず青く見える。
周りを比べるのではなく、自分なりの解釈と考えを持って建築と向き合ってみます。

最後に
30歳までは自分の将来は決めなくて良い。そして30歳になる手前で決断をする時が来る。 今の若い人は真面目で早く自分の将来を決めなくてはと考えるが、その時が来れば自然と決まる。そして、仮に30を超えてからでも変えられる。
一貫したビジョンを持つことは重要だと思います。
ただ、私もこれまで何かをやってみて、着地した地点が思っていた通りのところであることの方が少なかったです。
自分が小学生の頃はこんな27歳になっているとは思っていませんでした。
自分達を取り巻く環境や、もっと大いところで世界は変化し続けていて、求められることもその都度変わってきています。
では今やるべきことは、というと。
与えられたことを一生懸命にやること。
とてもシンプルなことだなと思いました。
漠然と抱えていた不安や焦りなどがスッキリとしました。
この記事にまとめた内容は全て私なりの解釈ですが、貴重な時間になりました。
建築的な考えや学びもたくさん得られましたが、何より、今できることを一生懸命やる、この記事をたまに振り返りながら頑張ろう、そう思えたセミナーでした。
素敵なお話をありがとうございました。
おわり。